免疫細胞はがん細胞を攻撃することが知られており、これまでの免疫療法は、免疫細胞をいかに活性化するか(攻撃力を上げるか)という戦略で開発されていました。様々な免疫療法が検討されましたが、肺がんに対して科学的に有効性を示した免疫療法は残念ながらありませんでした。
一方でがん細胞は、PD-L1という分子を発現し、免疫細胞のPD-1分子に結合することにより、活性化した免疫細胞を抑制し、免疫細胞の攻撃から逃れていることが分かりました。PD-1分子を発見したのがノーベル医学生理学賞を受賞した本庶佑先生です。免疫チェックポイント阻害剤(抗PD-1抗体、抗PD-L1抗体)は、PD-1とPD-L1が結合するのを防ぎ、免疫細胞ががん細胞を攻撃できる状態に保つことのできる薬剤です。
現在、抗PD-1抗体としてニボルマブ(オプジーボ)とペムブロリズマブ(キイトルーダ)2剤が、抗PD-L1抗体としてアベルマブ(バベンチオ)、アテゾリズマブ(テセントリク)、デュルバルマブ(イミフィンジ)の3剤が承認されています。承認されているがん腫は以下のとおりでまだ、有効性が確認できていながんも多く、すべてのがん患者さんに使用できるわけではありません。
一般名 | 販売名 | がん腫 |
---|---|---|
ニボルマブ | オプジーボ |
悪性黒色腫 非小細胞肺がん 腎細胞がん 古典的ホジキンリンパ腫 頭頸部がん 胃がん 悪性胸膜中皮腫 |
ペムブロリズマブ | キイトルーダ |
悪性黒色腫 非小細胞肺がん 古典的ホジキンリンパ腫 尿路上皮がん 高頻度マイクロサテライト不安定性(MSI-High)を有する固形がん |
一般名 | 販売名 | がん腫 |
---|---|---|
アベルマブ | バベンチオ | メルケル細胞がん |
アテゾリズマブ | テセントリク | 非小細胞肺がん |
デュルバルマブ | イミフィンジ | 非小細胞肺がん |
また、がんの治療は病期(進行度)によって異なります。病期によっては免疫チェックポイント阻害剤が勧められない場合や使用できない場合があります。例えば非小細胞肺がんの場合、手術の適応のある患者さんに対しては、免疫チェックポイント阻害剤よりも手術が勧められます。手術との併用も現時点ではお勧めできません。他の薬剤(抗がん剤や分子標的治療薬など)との併用に関しても限られたがん以外には認められていません。
免疫チェックポイント阻害剤は、これまでの抗がん剤と異なり、悪心、嘔吐、脱毛、食欲不振、骨髄毒性(白血球減少、血小板減少、貧血)といった副作用はあまり認められません。しかし、頻度はそれほど高くはありませんが免疫関連の副作用(大腸炎、間質性肺炎、糖尿病、ホルモン異常など)が生じる場合があります。免疫チェックポイント阻害剤を使用する場合は、担当医師から免疫関連の副作用に関する説明を十分に聞き、副作用発生時に素早く対応できるように副作用を理解しておくことが大切です。
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